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一般の方へ

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銭谷有基さん(新潟)の体験談

製薬会社の研修でAS患者代表として講演実施

2014年6月某日、井上先生から電話があり、製薬会社で研修のため講演してくれるAS患者を捜しているとのことでした。要請を引き受けた私は、アッヴィ合同会社の担当者とも打ち合わせを重ねAS発祥当時から十数年経過した現在に至るまで、どのような考えを持ち、どう生きてきたのかをまとめて発表しました。その内容をご紹介させてください。

講演は2014年7月17日、軽井沢のホテルで行われました。東京駅から長野新幹線に乗って約1時間、初めて訪れた軽井沢は関東より幾分か涼しい風が吹き、豊かな緑のほかアウトレットモールが多く見かけられました。
対象はアッヴィ社のMR(医師に医薬品情報を提供し、自社製品を使用してもらう、一般企業の営業に相当する職種)が対象で、約200人を目の前にしての発表でした。発表内容を以下にお示しします。
単なる疾患の話をしていては聴衆の心に残りにくいと考え、発表では患者として、罹患後どのように日々の生活を過ごしていたか、またどういう気持ちだったかを中心にお話しました。

発表は身体に違和感を覚え始めた12歳の頃から開始しました。最初期の症状は、股関節痛がひどく、湿布を貼っても電気治療をしても、ほとんど効果がありませんでした。

診断名がついたのは15歳のとき、高校に入学して間もなくのことでした。それまではCTでもMRIでもASであることを特定できず、精神的な疾患ではないかと疑う医師もおり、苦しい思いをしました。

この頃の心情についても説明を加えました。痛みがますます強くなり、身体機能の制限も増すにつれ、何事もマイナス思考で捉えて考えるようになっていきました。また罹患して間もなくの頃は、家族もこの未知の病気に対して完全な理解を示してくれたわけではなく、家族を含め周囲との人間関係に次第に支障をきたすようになっていきました。 心情のみならず、生活にも変化が顕われてきたことを説明しました。
普段から痛みのため、また運動によってさらに痛みが増すため、家にこもりがちになってしまいました。また、当時高校生であった私は松葉杖をついて歩く自分の姿がコンプレックスでしたし、鎮痛薬の効果が減弱したときはほんの数段の段差を登るのも厳しかったため、学校に行くのが辛かったです。就寝中に鎮痛薬の効果が切れてしまい、真夜中にうなされ起きてしまうことも何度もありました。
一般的に高校生活というものは、できることも増えてとても楽しいものであり、私自身、そういった楽しい高校生活を思い描きつつ入学しました。しかし、このような状況ではとても楽しむどころではありません。

ここからのスライドは、発症当時から現在に至るまでの症状と治療についての説明です。
ASを発症した2000年前後は、TNFα阻害剤はまだ使用されていませんでした。NSAIDsを中心に使用しておりましたが、効果の切れる明け方および夕方は、必ず強い痛みがぶり返してきました。また、痛みを抑えている間も気力が 回復することはなく、薬を飲んでも結局、テレビの前で3、4時間を無駄に過ごしてしまうような日々が続きました。

大学生・院生時代(2005~2011年)に、当時治験中であったTNFα阻害剤を使用開始しました。効果は非常に大きく、痛みが劇的に改善したほか、物事に対するやる気・気力が回復し活動的になることができました。
しかし同時期に、脊椎の強直が始まりました。それまでに体験したことのない激しい痛みであり、起床後や就寝後に決まって痛みが来るため、寝る事に対して恐怖すら感じるようになりました。

2014年現在の症状と治療です。
TNFα阻害剤はいまも使い続けており、痛みの低減と気力の回復には役立っています。しかし、残念ながらTNFα阻害剤には脊椎強直の進行を抑制する効果はないようです。2014年7月現在、私の脊椎は分度器のように湾曲したまま強直し、背筋を伸ばすことができません。そのため、2014年中に手術を受ける予定です。
しかし、手術を受ければ問題が全て解決するわけではありません。脊椎強直は腰椎から胸椎へと進行しているからです。いずれは頚椎も強直し、首を回して後方を見ることが困難になるおそれがあります。

ここまでのスライドの総括です。
ASを発症し、痛みの強い時期が続いた10代後半~20代前半は精神的にも身体的にも非常に辛かったです。TNFα阻害剤の使用は脊椎強直には効果がなかったものの、痛みの劇的改善及び物事に対するやる気・気力の回復をもたらしてくれたため、私にとって人生のターニングポイントとなりました。
ASのために多くの困難を経験し、人並みの楽しみや喜びすら享受することができませんでしたが、それでも具合の良い時は楽しい出来事、嬉しい出来事もありました。しかし強い痛みがあっては、それを実感することは不可能です。そのためにAS患者は良い薬を必要としていることを主張しました。
最後はTNFα阻害剤をもっと普及させてくださいというメッセージで締めくくりました。私の発症時期にはTNFα阻害剤がまだなく、強い痛みの為に青春時代を台無しにしてしまいました。しかし現在、ASを発症して間もない患者は、この痛みと無気力を回復してくれる良薬を使用することができます。私のような生き方を現在の若い患者さんたちに繰り返してほしくないと、心から思っております。
以上が講演の全容です。
帰りの新幹線で、アッヴィ社の担当者と、「脊椎強直の進行を抑制できる薬が開発されたら」という話をしました。そのような薬が開発される頃には、私の脊椎強直は完全に進行しきっているでしょう。しかしASのために苦しむ若い患者を救済してくれる、そのような新薬の開発を心から待ち望みたいものです。

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