強直性脊椎炎とは何ですか?
手足の小さい関節から発症することが多い関節リウマチとは異なり、脊椎や骨盤の炎症が主体となる原因不明のリウマチ性疾患です。手足の大きな関節(股、膝、足、肩など)も罹患する場合があります。
脊椎周辺、すなわち腰背部、殿部、項部、時に股関節や膝関節の疼痛、全身のこわばりや倦怠感、発熱などが主な症状で、病状が進むにつれて次第に脊椎や関節の動きが悪くなり、20~30%の症例では、脊椎が骨性に固まって動かなくなる、すなわち強直を生じることがあります(竹様脊椎bamboo spine)。まれに股関節にも強直が起こり、人工関節置換術が必要になることがあります。その他に、眼(ぶどう膜炎、虹彩炎)、皮膚(乾癬)、腸管(クローン病、潰瘍性大腸炎)などの疾患を合併することがあります。
この病気の患者さんはどれくらいいるのですか?
この病気はヒト白血球抗原(HLA)のうちHLA-B27との強い関連性があります。日本では一般人口の約0.3%がHLA-B27陽性であることが報告されています。しかし、このB27陽性者のうち発症するのは10%未満ですので、20数年前の我が国における唯一の全国規模の統計調査では4500人とされているものの、単純に計算すると、日本人の強直性脊椎炎は人口の0.02~0.03%と推測され、実際には3万人前後と推察されます。日本人のHLA-B27の保有率は諸外国に比較して格段に低く、従って、これに連動して、日本の強直性脊椎炎の患者さんは、諸外国に比べて極めて少ないと考えられます。そのため診断が遅れがちとなり、患者アンケート調査によれば、初発から診断確定まで9年前後です。
この病気は、どのような人に、どのようなきっかけで発症するのですか?
男女比は約3:1と男性に多く、ほとんどが40歳以下で発症します。一般的には、男性に比べ女性では発症が遅く、軽症例が多いとされています。分娩、怪我、手術などが発症や悪化の契機になることが知られていますが、統計学的な立証には至っていません。発症や病状経過に影響を及ぼす環境因子として、細菌感染や飲食物や化学物質などが考えられていますが、特定されていません。
この病気の原因はわかっているのですか?
残念ながら原因はわかっていません。HLA-B27との強い関連性が示す通り、家族内での発症がより高いというデータは出ていますので、遺伝がある程度関与していることは確かなようです。その他の要因については、まだわかっていません。
この病気はどのような症状が起きますか?
多くの例で、腰痛(仙腸関節痛)や殿部痛(坐骨神経痛)から始まりますが、痛みは次第に、項・頸部、胸部、四肢の大きい関節に拡がります。進行すると(すべての人ではありません)、体を屈伸することが困難になり、ソックスを履いたり靴ひもを結んだり、また上を向くこと、上のものを取ることなどの動作が困難になります。脊椎は次第に前に曲がり(後彎)、前屈みの姿勢になります。
腰背部痛は、多くが45歳以下の人にゆっくりと始まりますが、急激に痛みが生じることもあります。その痛みは安静にしても軽くはならず、むしろ動くと改善するのがこの病気の特徴でもあります。このような病像は「炎症性腰背部痛」と呼ばれ、この病気の早期発見の糸口となります。初期には、痛みが強いとき(数日から数週間)と全く痛みがなくなるときの波が激しいことが特徴です。
股、膝、足、肩など大きな関節の関節痛が発症時や経過中に起こることが知られています。
また、踵(かかと)、大腿骨の大転子(ふとももの上部外側の骨のでっぱり)、脊椎の棘突起(背中の中央を縦に走る骨のでっぱり)、肋骨や鎖骨、坐骨結節(座るときに当たるところ)などの靭帯が骨にくっつく部位の痛みが起ります。これは「付着部炎」と呼ばれています。
体のだるさ、疲れやすさ、体重減少、微熱、高熱などの全身症状が出ることもあります。
約30%の人に前部ぶどう膜炎(虹彩炎)が起こります。症状は、眼の痛み、充血、飛蚊症などで、発症は急性で片側性、再発性であることが多く、早期に眼科的治療(点眼、内服、重症では眼球注射)を受ければ予後はよく、失明することはまずありません。
その他に長期罹患により骨粗鬆症が起こります。特に首の骨が軽微な外傷によって骨折が起こり、脊髄の損傷を併発すると手足の麻痺や呼吸障害を起こすことがあるため、怪我には十分注意する必要があります。
この病気にはどのような治療法がありますか?
運動療法は治療の基本です。背骨や胸の動きが制限され、動きづらくなって日常生活動作や就労に支障をきたすようになるため、毎日時間を決めて自分自身で体操や運動を積極的に行ってください。ゆっくりとしたストレッチやプールでの歩行も良く、また痛みやこわばりを和らげるため、入浴や温泉も勧められます。強い矯正を行う整体・マッサージは骨折や筋肉・靱帯の損傷の危険性があるので避けるべきです。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は薬物治療の基本です。これにより多くの例で痛みが和らぎます。ただし、胃腸障害や腎障害などの副作用のチェックを怠ってはなりません。
疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)、特にメトトレキサート(リウマトレックスⓇ、メトレートⓇなど)は関節リウマチと異なり、脊椎病変には有効であることは証明されていません。ただし、四肢の関節炎が主体の場合にはサラゾスルファピリジン(アザルフィジンⓇ)の有効性が認められています。
近年、関節リウマチに汎用されている生物学的製剤のなかで、TNF阻害剤が強直性脊椎炎にも有効であることが証明されています。日本では、2010年からインフリキシマブ(レミケードⓇ)とアダリムマブ(ヒュミラⓇ)の適応が承認されました。これらの薬剤により7割以上の患者さんに、痛みやこわばりなどの症状の改善がみられ、ADLの著明な改善が見られます。特に若年者で炎症が強く、疼痛やこわばりのために就労や就学に支障をきたしている場合、このTNF阻害剤治療が勧められます。ただ、感染症その他の副作用に対する注意が必要なため、開始にあたっては医師とよく相談し、事前の全身チェックとともにその使用上の留意点につきよく説明を受け理解した上で受ける治療といえます。
脊椎が前に曲がって前を向いて歩くのが危険になったり、前屈姿勢のために腰背部の痛みが強く日常生活がままならなくなったり、内臓の圧迫徴候が出たり、あるいはまた関節の痛みや運動制限が強く、日常生活や歩行に強い支障がある場合には、手術的治療によりQOLが著しく改善しますが、大きな手術のため麻酔・手術の合併症の危険性もあり、術前の入念な全身検査と、医師による十分なインフォームドコンセントが大切です。
この病気はどのような経過をたどるのですか?
ほとんどが10~20代で発症し、病勢のピークは20~30歳代で、40歳代にはいると次第に沈静化するのが一般的です。激しい疼痛と入れ代わるように脊椎や関節の運動制限、すなわち拘縮や強直が目立つようになります。しかし、高齢になるまで全脊柱が強直する人はおおよそ1/3です。このように、すべての患者が、また、痛みが出たすべての部位が、強直するわけではありません。実年期・老年期に入ると激しい痛みは減り、こわばりと倦怠感などが主体になります。
この病気が直接の死因になることはなく、生命予後は比較的良好です。外国の報告では死因で最も多い原因は心血管系の疾患です。
参考資料:日本AS友の会(AS WEB) 強直性脊椎炎 療養の手引き
治験情報の検索:国立保健医療科学院
新規掲載日:平成27年12月30日
強直性脊椎炎についてさらに詳しくお知りになりたい方は、こちらの手引きをご参照ください。
(療養の手引き第3版(最新版)、pdf形式)
強直性脊椎炎の臨床調査個人票が必要な方は、こちらをご参照ください。
(pdf形式)
治験情報の検索:国立保健医療科学院
新規掲載日:平成27年12月30日